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    • 2017.09.25 Monday
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     ある人に言わせると、合コンで女子に連絡先を聞かない男子のことを『虫』と呼ぶらしい。

     合コンで連絡先を交換することは男に科せられた最低限の礼儀であり、興味があるとかタイプであるとかいう以前の問題だ。そんなこともできない野郎はもはや人間ではない。虫だ、虫ケラだ、といったところか。大いに笑ってしまった。

     一理ある。けれども、もう一方で興味もへったくれもなかった異性に社交辞令で連絡先を聞くのもいかがなものか。気安く「メアド交換しな〜い?」などと絡まれるぐらいなら、結構です、と思う女子も少なからずいるはずである。

     そこで出た結論としては、付き合う付き合わないは置いといて、いち知り合い、いち友人として連絡先を交換すればよいのではないか、と落ち着いた。キッカケはどうあれせっかく縁あって飲みの席で顔を合わせたのだから、これっきりというのも侘しいではないか。

     人生何が起こるか分からない。

     気にも留めていなかった異性にある日突然ときめきスイッチが入るかもしれないし、合コンで知り合った人の友人の友人の友人に未来の結婚相手がいるかもしれない。


     笑っている場合ではなかった。

     僕もどちらかといえば、いや、どっぷりと虫側の男だが、もしこの先、合コンに参加する機会があるならば、虫から脱皮して人間になりたい。早く人間になりたい。

     ちなみに僕の苦手なものは、高所、ジェットコースター、喧嘩、くすぐり、ウソ、ゴキブリ。そして、合コン。



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      行け!藤中テニス部

       一人で買い物に出かけた帰りの電車内。
       私服の中学生男子三人組が左隣に座っていた。
       彼らは、一人が参考書を片手に英単語を言い、残りの二人が単語の意味を答えていた。

       移動中に勉強とは、近頃の若いモンも捨てたものじゃない、とおっさん目線で微笑ましい光景を横目に見ながら、僕はある思い出がフラッシュバックした。
       それは自身の中学時代の記憶。


       僕の通っていたのは地元の埼玉県は鶴ヶ島市藤中学校。
       部活は軟式テニス部に所属していた。

       一般的に練習の厳しいイメージのある部活といえば、野球部、サッカー部、バスケ部あたりが挙がると思う。
       テニス部と聞くとチャラくて、練習はさほど厳しいイメージは無いだろう。
       だが、我が藤中の男子テニス部の練習は厳しかった。
       
       野球部の連中が「テニス部やりすぎじゃない? 大丈夫か?」と心配するほどきつい練習内容。
       学校の外周を走る長距離走、テニスコート四面をダッシュする短距離走、雨の日にはみっちり筋トレ。
       中学校入学当時、太っていた僕はおかげ様で二年に上がるころには自然とスリムになっていた。

       授業が終わったあとの通常練習以外に、僕は朝練習にも参加していたため、7時前に家を出ていた。
       朝練は任意参加だったが、まだ純真無垢なマッシュ少年は「ダリい」「朝起きれない」などとは一切言わず毎日朝練に顔を出した。

       中間、期末テスト期間は部活動は休みだ。
       しかし、テスト期間も7時前に家を出た。

       なぜか。

       テスト期間中はテニス部仲間でとあるゲームがおこなわれた。
       冒頭で書いた中学生三人組のように、一人が問題を出し、その他のメンバーが解答するゲーム。

       ルールはいたってシンプル。舞台は教室。机の上に糊(のり)を立てる。直径3センチ、長さ15センチほどの糊だ。
       4〜5人で机を囲み、出題者が問題を読み上げ、早押し形式でわかったら、その糊を掴む。
       掴んだ人に解答権が与えられ、正解したら今度は出題者になる。

       まるでクイズ番組に参加しているかのように楽しかった。確かジュースか何かを賭けていたんだと思う。
       
       皆必死になって答えた。
       ただ、途中経過に何の意味もなく、正解数は意味を成さない。最終問題に正解した人が無条件で優勝となる。

       昔のテレビのクイズ番組に「最終問題は何と50点! 全チームに優勝のチャンスがあります!」などという「今までのがんばりは何だったんじゃい!」とツッコミたくなるルールがよくあったが、まさにそれ。

       最終問題は皆、目が血走るほどに集中し、「わかったぁぁぁぁ!!」と奇声を上げながら早押しのノリを奪い合った。


       勉強は、いかに楽しんでやるかがカギのように思う。
       つまらない、苦しいことをやっても身につかないし、無理やり頭に詰め込んでもたかが知れている。
       
       いっしょに勉強する仲間の存在も大きい。
       僕はそういった意味では中学時代の仲間には恵まれていたように思う。
       きつい部活の練習も仲間がいたからやってこれた。

       その反動か、まったく勉強をせず、口を開けば「めんどくせー」しか出てこない無気力・暗黒の高校時代を迎えることになるのだが、それはまた別のお話。



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        雨の日に休む男

         高校三年生の頃、やたら欠席の多い男がいた。

         欠席どころか、遅刻、早退もしょっちゅう。
         ある日、遅刻をして、かつ早退をしたため、担任の先生と顔を合わせなかった。
         翌日、「きのうはなぜ休んだのか」と担任に問われた男は「体調不良です」とだけ答え、そのまま欠席あつかいになった。遅刻と早退をカウントされるぐらいなら欠席一回でいいや、とでも思ったのだろう。

         男は雨が降っただけでも学校に来ない。

         雨の日の体育の授業。
         この日も男は学校をサボっていた。
         出欠を取る体育教師。

         「おーい、○○。○○は休みかー」

         「先生」

         反応したのは、目立ちたがり屋でお調子者の小堺くん(仮名)。


         「○○は……










         ○○は湿気に弱いんで、今日は休みです」















         湿気に弱いって……。あいつ精密機械か。









         クラス一同、爆笑。

         後日、その話を聞かされた男は、「湿気に弱い」と言われるのが嫌で、雨の日の出席率がちょっとだけ良くなった。ほんのちょっとだけ。

         時は経ち、時間にルーズ過ぎる男は、一丁前に成人し、今では、少々の体調不良では仕事を休まず、遅刻に限っては99、9%以上しないと豪語する、規則正しく時間の守れる社会人になりましたとさ。
         めでたしめでたし。








         ※ ちなみに「男」とは僕のことです(爆)



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          僕がお前で、お前が僕で

           一体何が起きたのか。
           車道を横断中だった僕は、左側から強い衝撃を受けて、尻餅をつき、そのまま仰向けに倒れこんだ。

           な、な、何だ。

           僕に衝突するや否や、ガシャンと音を立てて横転したのは、全速力で坂を下ってきた自転車だった。


           僕が毎日のように歩いている、東京は渋谷の宮益坂。
           坂上と坂下、それに坂のちょうど中央に信号機がある。

           帰り道、坂を下りながら、中央の信号機に辿り着く前に車道をななめに横断する。信号機まで歩道を歩き、きちんと横断歩道を通るのが正しいのはわかっている。わかっているが、ななめ横断の方が早いこともわかっているのでついついやってしまう。よい子のみんなは決して真似してはいけない。

           赤信号に引っかかった車が停車している間を縫うように抜けていく。このとき、気をつけなければいけないのはバイクだ。バイクが車両の左側を通過していくことが非常に危ないのは、第一種普通自動車免許を持っている方ならば教習所で教えてもらったことだろう。

           僕はいつも、バイクがこないかどうか、首を左に向けて確認しながら横断していた。
           が、このときだけ、たまたま確認を怠った。
           事故とは得てしてこのようなときに起こる。典型的パターンである。


           「イテテ……」

           立ち上がり、倒れている男をのぞき込むと、どこかで見覚えがある。
           黒縁めがねに紺のコート、ジーンズ、ボルドー色のボストンバッグ。

           見覚えがあるどころか、生まれてこの方、鏡を見れば必ずそこにいる男。
















           ……僕じゃん!!


           自分が自転車乗りの格好をしてるってことは……













           身体が入れ替わった??????













           ……なんて漫画的な展開はもちろん無かった。

           つまらん。ひじょーに、つまらん。
           

           ド派手に転んだ割には、痛みはほとんど感じなかった。ただ、転んだ際、思い切りアスファルトに右手をついたので、手のひらが擦り傷で鮮血がベッタリ…… と、ならなかったのは手袋をしていたお陰。ああ、冬が寒くって本当によかった。

           身体の入れ替わる面白展開がなかったのも残念だったが、もっと残念だったのは、自転車に乗っていたのがニーチャンだったこと。

           もしも、かわゆい女の子だったら、ここからが始まっていたかもしれないな、いや完全に始まってたな、そんなはずはないさ、それはわかってる、と妄想絶好調な休日前の帰り道で発生した、ちいさな事故だった。












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            大地震、そのとき僕は

             その日は17時入りだった。

             僕は、仕事が夕方からの場合、数時間余裕を持って家を出るようにしている。
             仕事前は、カフェで読書をするか、買い物をするか、または・・・・・・。
             もうひとつの選択肢の、とある場所にいたとき、あの大地震に見舞われた。


             2011年 3月11日 14時46分

             「揺れてませんか?」

             対面に座る中年男性が声を発した。地震だ。
             店員さんからの「いったん手牌を伏せましょう」との呼びかけに応じる4人。
             発生直後は冷静でいられたものの、地震が治まるどころか、さらに揺れが大きくなると、ただ事ではないと店内が騒然となった。

             「直ちに外へ避難してください!」店員さんが大声を張り上げる。

             崩れる牌山。
             サイドテーブルのコーヒーは波を打ちながらこぼれた。
             立ち上がると、何かにつかまらないと歩けないほどの揺れ。デカイ。そして長い。
             最悪の事態が頭をよぎる。

             慌ててハンガーラックからコートをむしり取り、バッグを抱えて店外に飛び出す人々。
             僕も例外ではなく、必死だった。
             雑居ビルの3Fから階段を駆け降りて、ようやく外に出た。

             辺りにはすでに近隣のビルから避難してきた人で溢れている。
             サラリーマン、OL、割烹着のラーメン屋の店員さん達、メイド喫茶のコスプレを着た女の子達。

             ケータイで地震情報をチェックしていた若い男が言う。

             「東北で震度7だってよ」

             鳥肌が立った。都内でも震度5だったらしいぞ、と続けて聞こえた。

             「オイ、あれ見ろよ」

             近くにいたカップルの会話が耳に入ってきた。
             男が見上げならが指差す先には、建設中のビル。地上30mほどのところに赤と白のクレーンが見えた。その巨大なクレーンがぐわんぐわん揺れているのがハッキリわかった。

             


             しばらく道端で待機したのち、店内へ戻る。
             今の半荘はノーゲーム扱いにします、と店員さんから説明があった。
             残っていただけるお客様はもうしばらくお待ちください、と続けて言った。
             僕は残る気になれず、そのまま店を出ようとしたとき、同卓していたビジュアル系バンドのボーカルのようなナリをした兄ちゃんが声をかけてきた。

             「俺ら、勿体なかったッスねぇ」

             僕と彼は4万点台のトップを争っていたのだが、それがノーゲームになってしまったことを嘆いていた。
             「そうですねぇ」と返答したが、内心は、それどころじゃないだろう、とツッコミを入れたいところだった。

             店を後にした僕は、池袋駅へ向かった。当然のように電車が止まっている事実を知る。
             少し待てば電車が動くだろうか。山手線の改札前で少々思案した僕は、今日、早めに家を出てきた一番の理由を思い出した。
             それは義理チョコのお返しの物色。
             まだ事の重大さを正確に把握していなかった僕は、平然とデパ地下のお菓子売り場へ足を伸ばす。
             営業はしていたものの、エレベーターは停止し、店内はざわついたままだった。

             僕は売り場をぐるりと一周し、いざこれに決めようかというとき、再び大きな揺れがきた。
             
             余震だ。
             店内にサイレンが鳴り響き、避難するようアナウンスが流れた。
             義理チョコのお返しを買ってる場合じゃない。義理で死ぬなんて、そんなVシネマみたいな最期は嫌だ。

             地下は危険だ。購入をあきらめ、地上へ出る。
             「とりあえず、歩くか」 
             いつ電車が動くかも分からず、職場への電話も繋がらない。
             歩きつつ、電車が動き出したらそこから乗ればいい、と考えた。

             僕は極度の方向音痴がゆえに、ここ池袋から表参道まで、どこをどういけばいいかさっぱりわからない。しかし、心強い見方がいる。iPhoneのGoogleマップがそれだ。GPSで現在地をリアルタイムで示してくれる。これさえあれば迷うこともないだろう。出勤時間まであと1時間以上ある。とにかく、歩き出すことにした。

             新宿駅付近まできたとき、空が曇り始め、雨がぽつぽつ落ちてきた。強風にも見舞われ、街は人で溢れている。救急車や消防車のサイレンを何度も聞いた。その光景は、地球がこれで終わってしまうかのような雰囲気。すでに歩き始めて1時間が経過していた。
             
             これは間に合わない。電車もまだ動いていない。タクシーは捕まらない。電話も繋がらない。

             万事休すだ。
             そもそも、今日のパーティーはおこなわれるのだろうか。
             今日はこのまま出勤しなくても問題ないのではないか、との考えがよぎった。連絡がつかないし、いいわけはどうにでもなりそうだ。遅刻して行ったところで、「今日はパーティー全部中止になったから帰っていいよ」と言われかねない。
             けれども僕は歩いて職場を目指すことにした。せっかくここまで来たのだ。それに、一人で居るのは正直言って不安だった。みんなの顔が見たくなった。誰かと話したかった。

             さらに歩くこと1時間。
             ようやく青山通りに出た。しばらくすると表参道の職場にたどり着いた。急いで着替えて宴会場へ。

             肩をすくめながら「遅刻してすみません・・・・」と恐る恐るみんなの前に姿を現すと


             「おお! 無事だったか!」

             「ええ?! どうやって来たの?」

             「お前何で来ちゃったの? バカだねぇ」


             結局、パーティーは全てキャンセル。 
             ただし、明日予定されている3件の婚礼はおこなうため、いる人間全員で披露宴会場のスタンバイ作業をして業務を終えた。
             地震の影響でエレベーターがストップ。テーブルからイスから、すべて階段で運ぶ。
             いつも以上にガテンな仕事にヒーヒー言いながらも、皆の顔を見れて安心した。来てよかった。
             その日は電車不通のため帰宅できず、知人宅に泊めてもらうことに。
             
             翌日はそのまま10時入り。あがったのは21時だった。

             帰宅したのは日付が変わる頃。
             地震発生から32時間が経過していた。
             心身共にぐったりと疲れた二日間がようやく終わった。




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              手袋に嫌われし者

               僕の独断と偏見によると、人が無くすものナンバーワンは傘だ。
               僕は今までに、少なくとも傘を3本は無くしたことがある。特に行きは雨、帰りは晴れの日は、傘を置き忘れる確率が飛躍的に上昇する。

               では、傘の次に無くしやすいものとは何か。
               それは手袋だ。
               手袋は左右一組で、しかも出先で着脱を繰り返すため、片方のみ無くしまうケースがよくある。

               僕は先日、手袋を片方無くした。
               気がついたらカバンの中には左の手袋しかなかった。

               いつ無くしてしまったのか、思い当たる節がない。高級品でもないし、特に思い入れの品でもない。仕方ない、諦めることにした。

               翌日は別の手袋をして出かけた。
               帰宅すると驚愕の事実を目の当たりにする。





               またしても




               手袋が





               片方しか











               ないやんけ!




               二日連続で手袋を片方無くすハプニング。
               何このイジメ・・・・・。
               自分自身の間抜けさに驚かずにはいられなかった。

               コンナコトッテ、アルノ?

               残されたのは、違う種類の手袋の、

               別種の、しかも右手左用の手袋をするという、ファッションの最先端の更に先をゆくスタイルも検討したが、さすがにそれはないだろうと冷静になった。

               片手に手袋をし、もう一方はポケットにインする無難な妥協案で収束。

               片手袋スタイルで外出した翌日、帰りがけにスポーツジムの風呂に寄ったとき、ふと思った。そういえば昨日もジムに来た。もしかするとここで落とした可能性もある、と。
               ジムでは落し物が多いらしく、落し物一覧表がエレベーター前に張り出されてあった。僕はその前に立ち、一覧表を眺めてお目当てのブツを目で追っていた。


               「あのう、お客様?」 


               後ろを振り返ると、店員のお姉さん。続けて言う。


               「きのう、もしかして、手袋落とされませんでしたか?」

               「!! ぁんぐぁ、あ、はい」


               驚きと興奮で思わず噛んだ。気を取り直し、手袋をつけた左手を差し出した。


               「もしかして、これ、ですか?」

               「あ! それです。今、お持ちしますので少々お待ちください」


               手袋の落とし主として、これ以上の証拠はない。
               こうして無事、二日間で二つの手袋を片方ずつを失うというおバカな惨事にはならず、事なきを得た。

               店員さんと拾ってくれた方に感謝感謝の大感謝。オールスター感謝祭であります。

               

               

               (手袋というか、正確にはハンドウォーマー)

               
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                雨の日のミュージカル的風景

                 僕とチーフはバーカウンターに立ち、ワイングラスを拭いていた。
                 視線の先には、無人のテーブル3つを挟んだ向こうに座る外国人の男女。

                 男性は30代、元K−1のマイク・ベルナルド似。
                 女性は20代、赤毛のアンを彷彿とさせる外見だ。

                 彼らは、ピッチャーに注がれたビールを、フライドポテトをおつまみにして飲んでいた。

                 来店から2時間ぐらい経過していただろうか。
                 2人がゆっくりと立ち上がり、手荷物をまとめ出した。

                 「ありがとうございましたっ」

                 僕らはそう声を出し、チーフは会計のため、レジへ向かおうと一歩踏み出す。
                 しかし、赤毛のアンの起こした行動に目を奪われ、チーフの足が止まった。

                 何を思ったのか、客席でおもむろに傘を広げ、「おめでとうございまーす」の染之助・染太郎のように、傘を回しだした。微笑みながらくるくると。
                 それはまるで、ありきたりな日常に突然始まったミュージカル。
                 
                 僕とチーフはあっけにとられながら、思わず口にした言葉がハモった。












                 僕とチーフ「か、かわいい・・・・・・」




                 僕らの視線に気づき、ちょっと恥ずかしそうにしながら、傘をたたんだ。
                 彼女はこちらに手を振った。僕らも手を振り返した。


                 赤毛のアン。あなたは大事なものを盗んで行きました。

                 それは・・・・・・













                 私の心です(爆)




                0

                  カット・ザ・まつげ

                   この世に完璧な人間は存在しない。

                   どれほど高尚な人物であっても、コンプレックスのひとつやふたつは持っているものだ。
                   まして僕のような「ボンクラ オブ ボンクラ」などは、十指に余るコンプレックスを抱えて生きてきた。
                   特に若かりし青春時代には、他人と自分を比べては劣っている部分を気にし、大いに悩んだ記憶がある。
                   数あるコンプレックスの中のひとつに「長すぎるまつげ」があった。
                   僕のそれは、マッチ棒が余裕で乗っかるほどのキューティクル。トレードマークのメガネを深く掛け直すと、レンズに突き刺さってしまうほどの長さだ。
                   今でこそまつげのことなど、ほとんど気にならなくなったものの、ウブでシャイだった高校一年当時は、この長すぎるまつげが嫌で嫌で仕方がなかった。
                   そんなある日、僕は唐突に解決方法を思い付いた。

                   長いなら 切ってしまえよ このまつげ

                   そうか、まつげを切ってしまえばいいじゃないか、と。
                   思い立ったら実行するのみ。山本リンダではないが、もうどうにも止まらない。自室に篭って手鏡とハサミを用意し、僕は手術(オペ)を開始した。片目をつむり、慎重にまつげにはさみを入れ、上下のまつげを同時に切り落としていった。
                   オペは無事に終了した。見事にスッキリした目元。これでまつげがメガネにぶつかることもない。
                   僕はコンプレックスに打ち勝ったのだ。勝利の余韻に浸るや否や、このオペには思いもよらぬ副作用があることを思い知らされた。
                   まつげに対して、横から垂直にはさみを入れて切ったため、毛先が鋭く尖ってしまい、まばたきするたびに目元がチクチク痛むという症状に襲われてしまった。
                   人間は1分間に約18回、まばたきをする。
                   どんなにまだたきを我慢したって、一日中、目を開きっぱなしにすることなど絶対に不可能だ。
                   僕はコンプレックスを歪んだ形で克服したものの、その代償はあまりにも大きく、まつげが伸びて毛先が丸くなるまでの数日間、チクチクに苦しみ続けた。

                   あの頃、僕は若かった。
                   もう一生、まつげを切ることはないだろう。

                  0

                    お金の尊さを知った日

                     「ブレンドコーヒーのS、ください」

                     ドトールコーヒーのレジの前で、僕は店員さんにそう告げながら、カバンから財布を取り出そうとしていた。
                     カバンには文庫本やタオルや着替えが散乱しているため、サッと財布が取り出せないことは、しばしばある。
                     だが今回はいつも以上に時間を要していた。

                     ・・・・・・あれ?


                     









                     サ イ フ ガ ナ イ ゾ ?


                     冷や汗をかきながら、僕は店員さんに財布を忘れた旨を告げ、店から逃げるように外へ出た。
                     もう一度、カバンの中をさぐってみるが、やはりない。

                     地元埼玉からここ渋谷まで、回数券とSUICAを駆使して電車を乗り継いで来た為、財布を開く機会はなかった。どうやら財布を家に忘れてきたらしい。

                     ん? まてよ?

                     ドトールコーヒーは、TSUTAYAのTポイントカードが使えるはず。溜まっているポイントでコーヒーの一杯は飲めるのではないか。
                     再度店内に入ろうとしたところで、自分自身にツッコミを入れた。
                     
                     Tカードも財布の中やんけ!

                     Tカードどころか、キャッシュカードもクレジットカードも財布の中。
                     まるでニッポンが東京一極集中であるように、僕は財布に一極集中している事実を目の当たりにした。
                     財布がなければ何も出来ない。

                     唯一、頼みの綱はSUICAにチャージされている電子マネー。
                     これが果たしていくら分あるのか。
                     僕はコーヒーブレイクを断念し、隣のコンビニに入った。

                     アルバイト前にコーヒーを飲みながらゆっくりするはずだった30分間をコンビニの立ち読みで潰す。
                     今日のアルバイトの勤務時間は11:30〜19:00だ。
                     食事代とドリンク代、渋谷から池袋までの帰りの電車賃を、この電子マネーでまかなわなければならない。
                     僕は残金を調べるためと喉の渇きを潤すための両面から、”命の水”ポカリスエット(500ml)を手にレジへ向かった。


                     「お会計147円です」

                     「SUICAでお願いします」


                     僕はSUICAを振りかざした。


                     (ピッ)







                     残金 424


                     よ・・・・・






                     424円??? たったの???


                     思ったより少なかった。1000円ぐらいはあると踏んでいたが、読みが甘かった。安易にポカリを購入したことを悔やんだ。
                     電車賃160円を考慮すると、事実上、残りは262円。これで昼飯を食わねばならぬとは、何たる事態。

                     テンションが上がらないまま、仕事が始まった。
                     15時過ぎに与えられた30分間の休憩。
                     近くのコンビニへ出向き、5分間のレッツ・シンキング・タイム。

                     一体、何を買うべきか―――

                     コストパフォーマンスを考えるとカップラーメンが最適に思えた。しかし、この厳しい暑さの続く中、熱湯を注いで食べるのは酷だ。却下。
                     僕の足はおにぎりコーナーへ向いた。最近、僕は「お米最強説」を唱えるほど、お米が大好きである。
                     そうだ。この小学校低学年級の経済力でも、おにぎりが買えるではないか。
                     僕は数あるおにぎりの中から、末端価格である「わかめご飯」のおにぎりを選択した。
                     続いて向かったのはお菓子コーナー。何かおかずになるようなものが欲しい。
                     迷いは無かった。ここはお前しかいない。ベビースターラーメンだ。
                     そもそもご飯に合うお菓子などさらさらない。
                     二つの商品を手にレジへ。

                     直巻おにぎり・わかめごはん 105円
                     ベビースターラーメンチキンミニ 31円

                     小計 136円

                     
                     休憩室で噛みしめるようにおにぎりとベビースターを食していると、あることに気がついた。
                     こ、これは・・・・・・





                     立派なラーメンライスセットではないかッ!


                     そう思うと泣けてきた。日本一しょぼい、ラーメンライスセット。流れる涙を拭う僕。
                     ちゃぶ台があったなら、ひっくり返したくもなるところだが、間違ってもそんなことは思ってはいけない。
                    有難く、味わいながらいただいた。

                     電子マネーの残り、288円。

                     これで電車賃を引いても128円残る。
                     バイト上がりに缶コーヒーが飲める。何とか凌げるか、と思いきやあるひとつの誘惑が襲い掛かってきた。

                     それは二回目の休憩。
                     もちろん食べ物はないし、ポカリの残りも飲み干してしまっていた。
                     一日に5、6杯は飲むカフェイン・ジャンキーの僕は、無性にコーヒーが飲みたくなってしまった。
                     缶コーヒー1本を買うか買うまいかで悩む大人も情けないが、これは生死に関わる重要な問題だ。

                     結局、特別割引で20円安い缶コーヒーを購入した。

                     残り、188円。

                     カフェインを注入し、ヤル気復活。
                     19:00上がりのバイトの予定が、21:30まで延長になるハプニングに見舞われるものの、なんとか凌ぎきった。
                     お疲れ様でした。

                     僕は一直線に渋谷駅へ向かい、山手線に乗り込んだ。電車に乗れるって、スバラシイ。
                     池袋駅の改札を通り抜けた。電光表示は、28円となっていた。

                     うまい棒が二本買える経済力を余し、無事帰宅。
                     僕はこの日、お金の尊さを知った。



                     


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                      マイ・ネーム・イズ・ヤミグチ

                       中学校には小学校と大きく異なる点がいくつか挙げられる。部活動、制服、上下関係など。その中のひとつに英語の授業の追加がある。日本生まれの日本育ち、海外に出た経験のないピカピカの中学一年生の僕にとって、英語は勉強する前から苦手意識があった。できればやりたくない。しかたなくやらされる授業。英語なんて覚えられるのだろうか。

                       初めての英語の授業で先生は、まず各自自分の名前を黒板に書いてみろと言った。自分の名前を英語で? 英語を何も習っていないのに書けるわけないじゃないか。後ろに座っていた友達に相談すると、そいつもさっぱりわからないと言う。当時僕は引っ込み思案で、積極的に発言や質問をしないおとなしい生徒だった。しかし、「自分の名前を英語で書く」という超難問を前にしては、質問しなければまったく何も書けない。恐る恐る先生に聞きにいくと、先生はあっさり言った。ローマ字で書いてくださいと。ああ、そういうことか。ローマ字なら小学校で習った。書ける。なーんだ。僕は黒板に群がる同級生に混じって、ローマ字で自分の名前を書いた。全員席に戻り、一人ずつ先生のチェックが入る。ローマ字ぐらい皆書ける。誰も間違うことなく採点は続いた。僕の番がきた。














                       「ええと・・・・ Yamiguchi・・・・ 


                        ヤミグチ??! 


                        ああ、惜しかったね。 i じゃなくて、ここ a だね(笑)」




                       間違えた―――

                       教室内、失笑。まさかまさかのミステイク。中一で自分の名前を間違えるのは、そうとう恥ずかしい。顔が真っ赤になり思わずうつむいた。

                       次の日から一部の女子の間で僕のあだ名は「ヤミグチ」になった。ただ、残念ながらあまり浸透せずにいつの間にか誰も呼ばなくってしまった。恥ずかしい思いはしたけれど、呼ばれる分には、わりと嫌いじゃなかったな。ヤミグチくん。
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